麻生内閣メールマガジン(第25号 2009/04/02)
この人に聞きたい
[『おくりびと』と『つみきのいえ』の米アカデミー賞受賞について]
(知的財産戦略本部コンテンツ・日本ブランド専門調査会委員、東京大学大学院新領域創成科学研究科教授 浜野保樹)
 滝田洋二郎監督の『おくりびと』と加藤久仁生監督の『つみきのいえ』が、2月22日(現地時間)に米アカデミー賞を受賞しました。

 これまでにも『羅生門』『地獄門』『宮本武蔵』『千と千尋の神隠し』の各作品が、そして和田三造、ナンシー梅木、ワダ・エミ、坂本龍一、石岡瑛子、黒澤明、伊比恵子の各氏が個人で米アカデミー賞に輝き、村木与四郎氏は4度もノミネートされています。ただ同じ年に作品そのものの賞を日本映画が複数とったことは初めてで、他国を含めてもフランス、イギリスなど数例しかありません。

 今年で81回を数える世界で最も長い歴史を持つ映画賞である米アカデミー賞は、芸術性が重視される国際映画祭ではなく、国内上映作品を中心に米映画人がこぞって選ぶ「国内」映画祭です。しかし、授賞式は国連加盟192カ国をしのぐ200カ国以上で中継放送され、一国の映画祭というだけでなく国際的に最も著名なイベントとなっています。

 家族の死、そして死者への敬意を通して生きることそのものへの感謝を、2作品は描いており、共通点が少なくありません。アクションもスペクタクルもなく、日々を誠実に生きるという、きわめて日本的な作品です。両作品ともに既に国の内外で多くの賞を受賞していましたが、米映画人によって評価されたということは、普遍的なエンターテインメントたりえているということだけでなく、そうありたい生き方や日常が描かれてあったためではないでしょうか。

 『おくりびと』は難産の末、山形県酒田市など一般の人々の協力のもとに撮影が行われ、完成にたどり着いた作品です。いまでは酒田市の撮影現場には観光客もつめかけています。『つみきのいえ』も若いクリエーターが長い時間をかけてコツコツと作ったものです。大金をつぎ込む映画作りや宣伝と対極にあり、作りたいものを心をこめて作り、作品の力だけで今回の結果に至りました。それ故にこそ、この受賞は一層誇らしいものとなっています。

 海外では日本人は何も語らないので理解しがたいと言われ続けてきました。しかし、この2つの作品は日本人の思いの一端を、静かな映像で雄弁に語っています。

 経済面からのみ語られることの多いコンテンツ産業ですが、日本のありのままの姿を伝え、日本の理解を深めてもらうために、これほど有効な方法はありません。米アカデミー賞受賞で確認できたように、まずは海外で日本の作品に触れてもらう機会が必要で、顕彰事業は有効であるだけでなく、それ自体が重要なコンテンツです。そのためにも、そういった式典が行える文化発信の場が首都に確保されなければならないでしょう。

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