麻生内閣メールマガジン(第26号 2009/04/09)
この人に聞きたい
[さくら日本]
(奈良県立万葉文化館長 中西進)
 いま日本各地で、さくらが満開である。さしずめ目下の日本は「ブルーミングジャパン」と言っていいだろう。

 以前、平成6年の新年に御歌会始の召人をおおせつかり一首を詠進した。

 永劫の 刻(とき)空にあり さくら波 木末(こずえ)にあふれ  日輪に燃ゆ

 新春をよろこび、日本への頌歌(オマージュ)として詠んだ。波のようにゆれるさくらの梢を通して広がる上空に「永遠の時間」を感じたのである。

 古い文献にはさくらの花びらが冬11月に舞ってきたとある。春どころか冬までも生きる花びらから、時の人は「非時(ときじく)」つまり永遠を感じたという。また、さくらがいのちの絶頂に花びらに変身するという文献もある。この絶頂のいのちの永続を、古来日本人はめでつづけてきたのである。

 ところで、わたしの勤め先の奈良県立万葉文化館で、つい先ごろ3月29日に「万葉こども賞」の贈呈式をした。その絵画の部の最優秀賞は名古屋市立村雲小学校2年生の鈴木若奈さんであった(選考委員長は高階秀爾氏)。

 この賞は朝日新聞社にも共催してもらって半年間、新聞紙上でも応募をよびかけたもので、『万葉集』の歌を題材として画を書いてもらった。鈴木さんが題材とした『万葉集』の歌は、つぎの一首である。

 あをによし 寧楽(なら)の京師(みやこ)は 咲く花の 薫(にお)ふがごとく 今盛りなり     小野老(おののおゆ)

 のちにこの歌を受けてよんだ一首があって、それによると、この花はさくら。さくらにあふれる奈良の都を賛美した歌だ。

 鈴木さんは一面を暖色にうめて二人の官女と楼閣を描き、みごとな春日の一景を再現させてくれた。

 さくらの木が二人をとりかこむように四方から満開の花の枝をさしのべている。いのちあふれる画面であった。

 わたしはいま「万葉のこころを未来へ」という運動を進めている。この一枚の画は、はからずも、万葉のいのちが幼い世代へと手渡されたことを、確実に示すものだと思われる。

 非時のさくらにいろどられて輝く日本。そんな日本を、わたしたちは大事 にしていかなければならない。

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